【横田仏壇店】

家業と自身の強みにガキビズの提案が加わり、新商品続々と

時代の移り変わりで業界全体が年々縮小する中、江戸期の創業の伝統ある家業を継いだ7代目は、売り上げアップと伝統の継承につながる新たな挑戦をはじめた。
最初は小さかったその一歩は、期待以上に、自分自身とビジネスの世界を大きく広げることとなった。

江戸時代後期の天保3 (1832)年から続く「横田仏壇店」。経験豊富な職人が心を込めて仕上げた仏壇の販売や、修理・洗濯を手がけてきた。ときには100年以上前に販売した仏壇を修復することもあるなど、代々地域に根ざした商売を続けてきた。

しかし、仏壇の購入需要は住宅事情やライフスタイルの変化によって減少傾向にある。その中で、大手仏壇・仏具店が大型ショッピングセンターに出店したり、飲食業に進出したりと、業界全体が現代の消費者のニーズに合わせた新たな展開を模索している。

横田仏壇店7代目の横田伊左嗣社長は、「この状況をどうしたらより良くできるのか。第三者的な目線で一度現状を分析してもらい、よりよくするためのヒントを見つけられれば」と大垣ビジネスサポートセンター(Gaki-Biz)を訪れた。

 ただ、やはり仏壇の売り上げを伸ばすことは難しい。Gaki-Bizの正田嗣文センター長は他の「Bizモデル」で数珠のお直しでお客様を集客に成功した事例があったことを踏まえ、「仏壇を売る以外の視点で考えてみましょう」と提案した。
 
 仏壇以外の「何に」フォーカスするか。横田さんはかねてから興味を持っていたお香や香りに関する商品を開発できないかと正田センター長に持ちかける。なぜ香りに興味を持つようになったのか気になった正田センター長は、横田さんの経歴などを丁寧にヒアリングしていった。すると、思いも寄らない一言が返ってきた。

「実は私、薬剤師なんですよ」

横田さんは大学で薬学を学び、家業を継ぐまでは市内の病院などで薬剤師として働いていた。香りに興味を持ったのは、仏壇屋の仕事をはじめてから。お香の原料メーカーの研修に参加したことがきっかけだった。「そこでお香の原料となる天然香料の中には、白檀、丁子など漢方に使われるものが多数あることを知りました。京都の老舗お香店の中には薬屋を兼業していたところもいくつかあるんですよ」。薬という言葉でお香への興味が高まった横田さんは、それを機にお香の勉強会に参加し、原材料を取り寄せては独学でお香作りを学んだ。「自分で試して遊んでいたという感じで。それが商売になるとは全く思っていませんでした」。

伝統文化を、新たな切り口で全く新しい商品に

「薬剤師が調合するお香」は説得力があり、強みになると感じた正田センター長は、横田さんと一緒にお香の商品開発に向けて、アイデア出しを進めていく。横田さんはこれまでに作ったことのあった匂い袋を含め、様々なお香の形を紹介。その中で正田センター長が「珍しい」と目をつけたのが、塗香(ずこう)という身体に塗るお香だった。
塗香は、古来より僧侶や修行僧らが山寺など手水のない場所での参詣の際に手にすり込んで心身を清めるために使われていたもので、体温で温まることで香りが広がる特徴がある。写経をする際に用紙に手の汗や脂がつかないようにコーティングする用途や、昔インドなどでは体の匂いを消すためにも使われており、最近では香水の代わりに利用する人もいるそうだ。

 近年、ルームフレグランスやボディクリーム、柔軟剤など日常的に香りを楽しむニーズは高まっており、香りは成長市場である。逆に言えば、競合が多いとも言えるが、塗香は一般的にはあまり知られておらず、ターゲットや利用シーンをうまく掛け合わせれば、ユニークな全く新しい商品ができるのではないかと正田センター長は考えた。

「身を清める」「体温で香りが広がる」「匂いを消す」「ベタつかない」。どのような商品であれば、こうした塗香の特徴を生かせるのか。塗香という伝統文化を、若い世代にも広めるにはどうしたらよいか。横田さんと正田センター長はディスカッションを重ねた結果、古本特有のイヤな臭いを消す用途に使えるのではと考えつく。メルカリやAmazonなどで古本を個人売買する機会が増え、ニーズは十分ある。ページをめくるたびに、ストーリーに合った香りが漂えば、リラックスして物語の世界に没入できるだろう。

「ラブストーリーなら甘いローズの香り、スポ根系、青春小説ならフレッシュなレモングラスの香りといったように、4種類の香りを調香しました。開発費がすごくかかるわけではないですし、トライアルとして試してみるにはいいかなと挑戦しました」

パッケージやチラシもGaki-Bizのデザイナーが全面的にサポート。2019年2月、読書専用の「ZUCOO(ずこう)フレグランス」として販売を開始した。

 この香りの新たな提案は、新聞やラジオ、ネットニュースなど多くのメディアで紹介され、中古本販売を行う大手企業からも問い合わせがあった。この会社とは取引に至らなかったが、他にもオリジナルのZUCOOを作る体験会の依頼が舞い込み、地域のイベントで販売やワークショップを行う機会を得た。
また、販売を始めて数ヶ月後、突然ネットショップに大量の注文が入る。船町にある奥の細道むすびの地記念館内の物産コーナー「芭蕉庵」で購入したお客さんがSNSで紹介したことで火がついたのだ。

「一気に注文がきたので、在庫がなくなってしまい、がんばって調合しました(笑)。知っていただければ、ある一定の層には響く商品なのだということが分かりましたし、やはり香りには需要がある。もう少し香りの方向で続けていこうと決めました」

第2弾は観賞用お香。地域とのコラボレーションを実現

 次に挑戦したのは、中国で流行していた「倒流香」。煙が下に流れる不思議なお香だ。白い煙がゆっくりと川のように下に流れる様はなんとも神秘的で、香りだけでなく視覚でも癒される。
 Gaki-Bizで相談すると、「せっかくなら香炉も作ってみましょう」と大垣市の陶芸家、夢現窯の河野聡さんを紹介される。香炉を作るための資金が必要になるため、クラウドファンディングを活用。Gaki-Bizから情報発信の方法やリターン品についてのアドバイスを受けながらプロジェクトを進め、観賞用お香『miryu-en』が完成した。

 目標金額は10万円。「30人くらいの方に購入いただければ」とスタートしたが、コロナ禍の前にもかかわらず、100人弱が購入し、応援購入総額648,250円を達成。『観賞用のお香があることを初めて知りました。とても癒されます』『日本の落ち着いた香りや煙の流れで、理想的な香炉でした』『煙を見ていても面白いし、香炉の造形も素敵です。専用に作っていただけるお香も楽しみです』など、想像以上の好評を得る。
「クラウドファンディングもそうですし、地元の陶芸家さんとのコラボレーションもできて、とても良い経験になりました」と横田さんは満足げに振り返る。

香りを通じて、自分の世界が広がった

 2020年12月には、岐阜関ケ原古戦場記念館の小和田哲男館長の監修のもと、関ヶ原の戦いに参戦した24人の武将をイメージした香りのサブスクリプション(定額制)サービス「薫香語(くんこうがたり)古戦場関ヶ原」を新たに販売した。横田さんが調合したお線香が毎月2種類、仏壇職人の技術を生かして作った黒塗りの木箱に入って届けられる。
関ヶ原との縁を取り持ったのはGaki-Bizだった。2020年は関ヶ原合戦から420年目の記念すべき年だったが、新型コロナウイルスの影響で予定されていたイベントが相次いで中止に。別の方法でPRできないかとGaki-Bizに相談していた関ヶ原観光協会を紹介され、コラボレーションが実現した。

若い宇喜多秀家はさっぱりとフレッシュな香り。徳川家康など名門武将は古典的な香り。細川忠興は千利休の弟子なので抹茶を練り込み、キリシタンの小西行長はキリスト教のミサで使われる乳香を用いた。兜がオレンジの武将は柑橘系……。
歴史からイメージを膨らませていく作業は想像以上に面白かった。

「不思議なことに、香りはイメージと結びつきやすく、香りを嗅ぐと記憶や感情が思い起こされると言われています。今回は歴史がテーマでしたが、例えば地域ごとの香りとか、温泉のイメージとか、様々なコラボレーションが可能だなと感じました。武将の話など、皆さんから色々な話が聞けることも楽しいです」

 今は、リモートワークをする上で多い「気持ちの切り替えができない」という悩みを解決するため、「仕事を開始する時、昼の休憩、夕方など、5つくらいのシチュエーションに合わせた香りを提案したい」と新商品開発に取り組んでいる。

「新たにアロマブレンダーの資格も取りましたので、ラベンダーとか、アロマとお香を組み合わせることでもっと幅が広がるなと研究しているところです。こういう(商品開発の)きっかけがなかったら、アロマの勉強をすることもなく、お線香だけで終わっていたと思いますし、世界が広がりました」

一生に一度から、立ち寄りやすいお店へ

 Gaki-Bizには月に1度のペースで相談に訪れる横田さん。「Gaki-Bizは企画から形になるところまで、継続的に見てもらえるのがいいですよね。これまでは仏壇を売る、修理するという以外の広がりがありませんでしたが、Gaki-Bizさんに強みを見つけてもらって、新たな展開ができるようになったのは本当に大きいです。
 こうした取り組みが直接仏壇の販売に結びつくかと言えば、だいぶ遠回りですけど……(笑)。知名度アップにはつながっていますし、地域の方とのつながりも広がっています。そもそも普通は仏壇屋に入るということ自体がないと思うので、香りの商品や体験会をきっかけに気軽に立ち寄っていいただける店になればいいなと思います」

【横田仏壇店】
●ホームぺージ https://www.yokotabutudan.com/