【坪井鈑金】
持っている武器を、いかに顧客獲得や売上アップに繋げるか
大垣市で最も古い自動車車体修理業者である坪井鈑金。創業65年の歴史で培ってきた武器を多く持っていたものの、それが顧客獲得や売上アップに結びついていなかった同社は、Gaki-Bizと一緒に一つひとつの課題に取り組むことで、全国からオーダーが舞い込み、世界的企業からも評価される会社へと変容した。坪井鈑金はなぜ好循環サイクルを作り出すことができたのか。坪井英倖社長の言葉で解き明かしてもらおう。
■自社の武器を再認識し、意識が変わった
坪井鈑金は、刀鍛冶の丁稚奉公をしていた坪井英倖社長の祖父が、戦後「これからは車の時代だ」と金属加工技術を活かして自動車鈑金塗装業を創業した。その後、自動車ディーラーの協力工場としての実績を重ねながら、エレベータ部品製作加工工場を設立。近年は福祉車両の修理・加工・制作や輸入車の整備に取り組むなど、業務の幅を広げてきた。
しかし、新たに始めた福祉車両改造や輸入車整備はすぐには芽が出たわけではない。「川崎文具店の川崎さんや横田仏壇店の横田さんとすごく仲がよいので、『PRの面で困っている』と話したところ、『僕らはGaki-Bizに行っているよ』と教えてもらいました。それが“Gaki-Biz”という言葉を聞いた最初でした」
ただ、坪井さんはすぐには相談に訪れなかった。Gaki-Bizがどんなところか分からなかった上に、福祉車両に本腰を入れ始めたばかりで、改造の事例を視察するため全国を飛び回っていたため、機を逸してしまったのだ。Gaki-Bizを訪れたのはそれから2年ほど後のことだった。
「印象に残っているのは、正田センター長が『坪井鈑金さんには、素晴らしい武器がありますね』とおっしゃったことです。というのも、まさにそれが私たちの悩みの根本でした。新しい取り組みをしているし、自分たちでも武器はあると思っているけれど、それがなかなかお客様につながっていない。そこを再認識できたことで方向性が明確になり、サービス化や情報発信の方法など解決に向けた具体的な方法を教えてもらいながら、一緒に歩き出すことができました」
■好きな車を福祉車両に改造できるサービスを発表
最初に取り組んだのは、武器の一つである福祉車両改造のPRだ。『プチカスタムde福祉車両』という新サービスとして打ち出し、2020年12月に開催された「新商品・新サービス合同プレス発表会」で発表した。
福祉車両は自動車メーカーが販売しているラインナップから選ぶのが一般的だが、その場合は車種が限られる。一方、坪井鈑金の『プチカスタムde福祉車両』は、好きな車に後付けで必要な補助装置を取り付けることができ、選択の幅が広い。国産車・輸入車問わずほとんどすべて車を福祉車両に改造できるのは、岐阜県では唯一で、全国的に見てもそれほど多くない。
合同プレス発表会を機に、福祉車両改造は注目を集め、新聞や地元の情報誌、テレビで紹介をされた。問い合わせは増えたが、坪井社長は「1回の発表で状況が一変したわけではない」と念を押す。「それ以降も継続的にプレスリリースを投げ込みながら、地元の情報誌やNHKさんなどに取材をしていただいたり、Gaki-Bizさんにチラシづくりを手伝っていただいたり、日々の積み重ねによって、少しずつ確実に認知が広がっていきました」
取材を受ける中で、福祉車両サービスを通じて自分自身が何を成し遂げたいか明確になったことも大きいと話す。
「テレビの取材をきっかけに、“人生を前向きにする車”というキーワードを掲げるようになりました。福祉車両改造を依頼するお客様の多くが「人生が前向きになった」と言ってくださり、それが私たちの喜びにもなっています」
そもそも、福祉車両改造を始めたのは、事故で車椅子生活になった一人の女性がきっかけだった。彼女は退院する際、車で帰宅しようとするも、愛車に車椅子が積めないことが発覚。お付き合いのあった車屋やディーラーに問い合わせるも断られ続け、「最後の頼み」と切実な思いで坪井鈑金を訪れた。
「『坪井さんのところが最後です』と言われたら、断りにくくて。メーカーの福祉車両の修理の経験はありましたし、僕自身も難題にチャレンジするのは嫌いではない。手探りでしたが、クレーンで車椅子を持ち上げる装置を取り付けました。それが個人向けの福祉車両改造のはじまりでした」
それまでの坪井鈑金はディーラーからの下請け業務が9割を占めていた。コロナ禍でディーラーからの依頼が減り、一時は売上が3割まで落ち込んだという。そんな中、坪井社長は福祉車両、輸入車、特殊加工といった個人向けの業務を拡大に舵を切る。Gaki-Bizのサポートを受けながら、4年間かけてコロナ以前と同じ売上にまで回復させる。と同時に、売上の中でディーラーの下請け業務が占める割合は1割以下に。直接話をできるお客様が増えたことで、さまざまなチャレンジがしやすい環境を作り上げていった。
■SDGsの取り組みで社会的な評価を勝ち取る
例えば、使用する塗料を社員の健康や地球環境を考慮して水性塗料に変更したことも、下請けから脱却したことで実現できたことの一つだ。日本の自動車修理業では、コストの観点から溶剤系の塗料を使うことが一般的だが、坪井鈑金では、ドイツの世界的化学メーカーBASFの水性塗料を採用している。そして、この決断が次の展開へとつながっていく。
「BASFの塗料は、人や地球にやさしいだけではなく、発色やツヤがとにかく美しい。通常の塗料より高くはなりますが、お客様に『この塗料はこういう理由で高いんですよ』ときちんと説明し、納得した上で対価をいただきます。お客様にはご満足していただいていますし、それが社員のモチベーションにもつながり、Win-Winの関係ができています」
坪井鈑金のサステナビリティな取り組みを知った正田センター長は、SDGs推進企業として宣言してはどうかと提案する。
「正直いうと、SDGs宣言をするためにわざわざ何かをすることが嫌だったんです。でも正田さんから『既にできていますよ』と言われて。確かに、当社で取り組んでいることをSDGsの17のゴールに照らし合わせてみたら、6つも当てはまったんですね」
「ぎふSDGs推進パートナー登録制度」に申請をしたところ、ゴールドパートナーに選出される。この時にゴールドに選ばれたのは53社。ほとんどが大手企業だった。
「正直驚きました」と坪井社長は振り返るが、さらに驚いたことにパートナー認証書授与の後に行われた「『清流の国ぎふ』SDGs推進フォーラム2023」で事例発表をすることになった。
さらにさらに、驚きは続く。フォーラムに参加していた世界的化学メーカー・BASF社から、日本で初めて最新の環境配慮型塗料を取り扱う認定工場に選ばれたのだ。BASFは国連が提唱したSDGsの策定に貢献したトップランナー。言うなれば、SDGs推進企業として世界的なお墨付きをもらったということでもある。
昨今の日本は慢性的な人手不足が課題となっているが、坪井鈑金ではSDGsの取り組みをきっかけに20代の若い社員が入社したそうだ。
「求人に苦労している企業が多いと聞くのですが、現在は社員募集をしていないにもかかわらず、先日も働きたいという20代の方から問い合わせをいただきました。当社は残業も少ないですし、社員の健康に留意した環境づくりをしている健康経営優良法人。しかも福祉という社会的意義のある仕事ができるということが、スタッフにとっても働きがいになっているようです。Gaki-BizからSDGsを勧められたことをきっかけに、いろいろな人とのつながりが生まれて、お客さまが増えて、スタッフの働きがいにもつながるという好循環が回り始めている。本当にありがたいことです」
Gaki-Bizへの相談内容は、事細かく書かれた議事録がピンクの分厚いファイルに残されており、全社員がいつでも自由に見られるようになっている。Gaki-Bizには坪井社長だけでなく、社員も一緒に相談に訪れるそうだ。
「成果を上げるには、社長一人が勝手にやっている、ではなく、スタッフを巻き込んで、全員が同じ方向を向いていることが大事だと思います」という坪井社長。こうした風通しのよさも、スタッフの士気の高さにつながっているのだろうと感じながら、イエローが鮮やかな坪井鈑金の本社を後にした。