【博多ラーメン 一木(いちき)】

味へのこだわりと店主の人柄を発信し、オープン前から多くのファンを獲得

『ミスター味っ子』の真似をして料理を振る舞っていた小学生は、40年来の夢を叶え、2023年3月28日に「博多ラーメン 一木(いちき)」をオープンした。オーナーは養老町在住の木村陽一さん。Gaki-Bizが木村さんの創業相談で着目したのは、開業までの経緯だった。今回は、Gaki-Bizの伴走支援を受けて、飲食業に初挑戦する一木のオーナー・木村陽一さんの「開業ストーリー」をご紹介する。

■一杯のラーメンが人生を変えた

博多ラーメンとの出会いは突然だった。トラックの長距離運転手をしていた木村陽一さんは、その日熊本県へ向かっていた。福岡県を走行中に昼時になり、ふと目に留まった大きな駐車場があるラーメン屋に入った。博多チャーシューメンを注文すると、ものの3分もしないうちにラーメンが運ばれてきた。「速い!」まずはそのスピードに衝撃を受けた。

しかし、その驚きは序の口だった。白濁したスープをレンゲで口に運ぶ。
「おいしい!全く臭みがないぞ」

続いて、極細麺を一口。「なんだこれは!!」今まで食べたことのない、腰の強い麺に度肝を抜かれた。

「この味を岐阜県に伝えたい!」
2018年6月18日のことだった。

■思い立ったらすぐ行動

木村さんはすぐさま行動に移した。まず取り組んだのは、博多ラーメンに不可欠な材料を調達することだった。ドライバーの仕事を続けながら、福岡県のみならず全国各地の製麺・醤油、辛子高菜会社にかたっぱしから電話をかけて、サンプルを取り寄せた。その数、60~70件。取り寄せては自宅のキッチンで作り、自分の舌で確かめる。また作って、食して。作って、食して、をひたすら繰り返した。

「これだ!」と思う麺が見つかっても、単価が高かったり、賞味期限が1週間と短かったりと、経営的判断で見送ることもあった。試行錯誤を重ねてようやく探し出したのが、福岡県の「製麺屋 慶史」の平打ち細麺22番。豚骨スープとよくからむ、小麦の香りをしっかりと感じるしなやかな細ストレート麺だ。

麺は決まった。続いて、もう一つの主役である豚骨スープ作りに着手した。ところが、ここでトラブルが発生する。トラックの積み込み作業中に事故にあい、鋼材がヘルメットを貫通。首骨骨折、前頭部7針を縫う大怪我を負ったのだ。4カ月入院生活、8カ月の自宅待機を強いられることになった。

一つ間違えば、命に関わるような大事故だった。しかし木村さんは「事故にあったおかげで、理想の味が完成した」と語る。「幸いにも後遺症もなく、自宅待機中は毎日朝から夜まで試作に打ち込むことができた。ピンチが最高のチャンスに変わりました」。

納得できる博多ラーメンが完成した。ところが、いよいよオープンに向けて動き出そうとした矢先、またしても足踏みを強いられることになる。新型コロナウイルス感染症の拡大だ。

■独学で理想の味を作り上げる

この苦境も、木村さんは前向きに捉えた。「オープンできないのならば、もっとおいしいラーメンを作る時間にしたい」。

東海地方の人気店を回り、「博多ラーメン店を開業したいと考えている者ですが、お話をお伺いできないですか」と教えを乞うた。当然、断られることも多かった。それでも木村さんは「恥をかいても、情報が入ればその方が良い。数撃てば当たると思って」と体当たりし続けた。そうした木村さんに心意気を感じてくれたお店の中には、厨房まで入れてくれ、仕込みからスープの調合まで全部見せてくれるところまであった。世界に支店を持つ、博多の有名チェーン店のオーナーがわざわざ岐阜まで足を運び、スープ作りのアドバイスをしてくれたこともあったという。

博多の有名店にも、感染防止に配慮しながらできる限り訪れた。自分の味との違いを確かめ、また岐阜に帰って試作にふける日々。目指したのは、豚骨独特の臭みがなく、旨味が凝縮されたスープだ。木村さんが生まれ育った養老町から仕入れた豚の各部位の骨を丁寧に下処理して、野菜と一緒にじっくりと焚き出す。使う豚骨の部位、野菜の種類や分量は毎回グラム単位で変え、研究を重ねていった。作れば作るほど、細かな味の違いがわかるようになり、味覚が研ぎ澄まされていくのを感じたという。
コクのある豚骨スープには、福岡市「ヤマタカ醤油」のオリジナルタレを合わせた。醤油の香りがふっと抜け、上品さが加わる。チャーシューも当初は業務用のものを仕入れる予定だったが、「せっかくここまでおいしいラーメンができたのだから全てにこだわりたい」と、自家製を提供することにした。

そうして、2023年1月にようやく「これで行こう」という渾身の一杯にたどり着いた。

■Instagramを活用し、開店前からファンを獲得

開業を決めた木村さんは、ラーメンを試作すると並行して、岐阜県庁へ開業資金などの相談に通っていた。そこでGaki-Bizの存在を知り、一度訪れてみることにする。

相談を受けたGaki-Bizのプロジェクトマネージャー松浦俊介さんは、木村さんの行動力、そして開業に至るまでの波乱万丈な経緯に着目した。

新店がスタートダッシュを切るためには、開店するまでにできるだけファンを増やすことが重要だ。運送業から料理の世界に飛び込んだ木村さんの異色の経歴、事故など様々な困難を乗り越えてきた道のり。それらを発信することで、興味を持ってもらえるのではないかと考えた松浦さんは、「博多ラーメンとの出会い」「理想の素材を探す中で」「まさかの大事故に遭遇」「人気店経営者からの教え」「博多ラーメン一木の一杯」という5つの話にまとめて、Instagramに綴っていくことを提案する。これが功を奏し、オープン前に数多くのフォロワーを獲得することに成功した。

お店のWebサイトもITアドバイザーのサポートを受けて作成。「本格的でびっくりしました。すごくかっこいいものができて、大変満足しています」と木村さんは興奮気味に話す。

開店直前の半年間はほぼ週1回ペースでGaki-Bizに通い、共に準備を進めた。そして2023年3月28日11時半、木村さんは新たな一歩を踏み出した。オープン当初から行列が続き、上々の滑り出しを切った。

だが、これで終わりではない。ここからが本当の勝負だ。木村さんは「自慢の一杯を一人でも多くの方に食べてもらい、『おいしかったね』の笑顔をいただけたら」と意気込む。

大垣市桧町のお店は、「博多ラーメン一木」 ”本店”とした。「将来的にも支店を出すことも考えています。そのためにも、まずはこのお店を軌道に乗せなければいけない。Gaki-Bizには引き続きアドバイスを頂けたらありがたいなと思っています」