【HAIR SPACE FOREST(ヘアースペースフォレスト)】

理容師・美容師の両資格を持つ強みと店主の人柄からサービスを開発

国道258号線沿いにある理美容室「HAIR SPACE FOREST(ヘアースペースフォレスト)」の代表・森 献之(けんし)さんは、不思議に思っていた。

「大垣青年クラブの先輩たちが最近よく新聞に取り上げられている。どうしてなのだろう?」

行動力ある森さんは、すぐに横田仏壇店の横田伊左嗣さん、川崎文具店の川崎紘嗣さん、坪井鈑金の坪井英倖さんに連絡。3人から返ってきたのは「ガキビズ、知らないの?」という言葉だった。

Gaki-Biz(ガキビズ)? 調べてみると、どうやら中小企業経営者や個人事業者のビジネスをサポートしてくれる場所らしい。ちょうど「経営者としてもう一皮剥けたい」と考えていた時期とも重なり、森さんは間髪入れずに予約を取った。

■人生の大一番に挑む男性を応援する「決戦前フルコース」

Gaki-Bizでは、最初に訪れた事業者に、どんなお店なのか、現状どんな課題を抱えているのか、店主がこれまでしてきたこと、関心のあること、これからどうなっていきたいのかを、ざっくばらんに、しかし丁寧に聞き取っていく。森さんの話を聞いたGaki-Bizのプロジェクトマネージャー・松浦俊介さんは、理容師・美容師の両資格を持っているという強みだけではなく、「森さんの高いコミュニケーション能力や根っからの人好きなところ、理美容師の他に婚活パーティーを運営しているという点にユニークさを感じた」と振り返る。

森さんは人脈やビジネスチャンスを広げるため、商工会議所とは別に、異業種交流会にも参加していた。そこで、岐阜市でウエディング関連の仕事をしているレストランの人と知り合い、一緒に婚活パーティーを主催しないかと誘われた。もともとしゃべることが好きだったこともあり、パーティーでは司会進行役を務めていた。

「婚活パーティーは本業とは全く関係ないところでやらせてもらっていたんですけど、お客さんの髪を切りながら話をしているうちに、『彼女いるの?』『彼氏いるの?』っていうところから、『誰かいい人いない?』という話になって。『じゃあ、僕が関わっている婚活パーティーに参加してみたら』とパーティーにお客さんを連れていくようになりました。その中から、結婚されたお客さんが5組以上いますし、プロポーズの前にカットやエステにきてくれたり、生まれた子どもを連れてきてくれたりする方もいます。」

プロポーズだけではなく、就職活動や大きな仕事など、人生の大切なイベントの前に、身なりを整えることで自分自身に気合を入れるという人は少なくないだろう。HAIR SPACE FORESTは西濃運輸本社の目と鼻の先にあり、野球部の選手が都市対抗野球などの大一番を前に来店することがあるという。2022年巨人にドラフト5位指名された船迫大雅投手もその一人。森さんは散髪、シェービング、頭皮のマッサージの施術を終えると、力強いエールとハグで送り出す。試合当日は「ガンバレ西濃」と書かれた手作りの応援ボードを掲げ、試合会場に向かう選手を見送る。選手だから特別というわけではない。受験やいじめ、職場の人間関係に悩んでいるお客さんがいれば親身になって話を聞くし、自分にできる範囲でお客さま一人一人の人生を応援したいといつも考えている。

その話を聞いたGaki-Bizの松浦さんは、「それを、そのままサービスにしましょう」と提案する。題して、「決戦前のフルコース」。カット、シェービング、眉カット、ヘッドスパ、エステとパックがセットになった男性限定のコースで、予約時に電話で人生の大一番を申告すれば、通常8000円のところ、「ゴーゴー!」という激励の気持ちを込めて5500円(平日のみ)で提供する。

「人生の岐路に立ち会えて、ましてやお金をいただけて、『ありがとう』と言ってもらえる。こんな最高な仕事はないと思っています。」

偶然だが、「決戦前のフルコース」の記事は船迫選手とのエピソードとともに、“読売”新聞にカラーで大々的に掲載された。

■理容師にしかできない、シェービングという強みを生かす

次に焦点を当てたのが、理容師のみが提供できる「シェービング」だ。高齢者施設を訪問した際、女性の顔の産毛を剃ったところ、「肌が明るくなった」「ツルツルになった」と喜ばれた経験があり、もっと多くの女性にシェービングを体験してほしいと考えたのだ。

今年5月の母の日に合わせて、お店の隠れメニューだった「母の日シェービング」をギフトとして贈ろうというキャンペーンを実施した。シェービングと眉カット、フェイシャルエステ、美容パックを含めた45分のコース。通常は4000円だが、5月6月の2ヶ月間、平日の午前9時から午後3時限定で500円引きになる。「普段、仕事や家事、育児を頑張っているお母さんに癒しの時間を提供したい」と森さんは話す。

シェービングで肌がキレイになると知っていても、行ったことがない床屋に自分で予約をして行くのはかなりハードルが高い。しかしプレゼントであれば、贈ってくれた人の気持ちを無駄にしたくないため、来店の敷居は下がる。お店側から見れば、平日の比較的余裕のある時間帯の来客数が増やせる利点がある。

このキャンペーンはGaki-Bizのプレスリリースを通じてPRを行った。新聞に紹介されたことで10人以上の新規客が来店。その後も継続して月に1回程度シェービングに訪れるお客さんもいるなど、成功裏に終わった。

実はこの企画を実施するにあたり、森さんには秘めた思いがあった。 「僕は理容師も美容師も両方の資格を持っているのですが、美容師に比べると床屋さんの方がマイナーなイメージが強い。それはすごく変な状況だと感じています。そういう背景もあり、理容師を目指す若い人が急激に減っているので、もっと床屋さんをフィーチャーしたいという思いを持っています。僕自身も“床屋さんができる美容師”じゃなく、“美容師もできる床屋さん”でありたい。床屋さんと美容師の違いは、シェービングができるかどうか。シェービングで成功した実績を作ることで、若い世代の見本になり、理容業界を盛り上げていきたいと考えています。」

Gaki-Bizとともに、経営者としてステップアップを

理容競技大会で優勝経験を持つ森さんだが、若い人に背中を見せるためには、自分自身も立ち止まってはいられない。自身の成長を求める森さんにとって、Gaki-Bizは良いメンターとなっている。

「Gaki-Bizに行き始めた頃は、ちょうど実家のこのお店に戻ってきて10年が経って、いい意味で行き詰まりを感じていました。仕事が順調に回るようになって、少し余裕が出てきた時期だったのかもしれません。もう一回り成長したいと思っていた中で、Gaki-Bizで自分では思い浮かばないようなアイデアを教えていただいて、すごく視野が広がりました。相談してよかったと感じています。」

この取材はお店の一角で接客の合間合間に行われた。この日は平日だったが、真っ白いドアを開けて店内に入ると、3つ並んでいるうちの一番入り口側の椅子にミドルエイジの男性が横たわっていた。「ちょっと待っていてくださいね」と森さんは私を待合スペースへ誘導すると、男性の顔をカミソリで剃り始めた。施術が終わり、その男性が帰ると、すぐに入れ違いで別の男性が来店した。2人目の男性にパックをしている間に、インタビューに対応する。わずか30分ほどの間にも「◯日の予約したい」「今日これから行ってもいいか」と電話が次々と入ってくる。とにかく、忙しそうだ。

「新聞でご紹介いただいたこともあって、おかげさまで夫婦2人ではいっぱいいっぱいになってきた。だから、スタッフを雇おうと、今はGaki-Bizに求人のご相談をしています。将来的には、もう1店舗、2店舗と広げて、経営者として飛躍していきたいなと思っています。」

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