【中部カラー工業】

サービスを端的に表現したネーミングで、成長を加速させる

名は体を表す、と言うが、ビジネスの世界ではむしろ逆かもしれない。商品やサービスの実体を、どのような言葉、名前で端的に表現するか。短く、強い言葉で伝えるにはコツがいる。だからこそ、コピーライター、ネーミングライターという職業が存在するのだろう。

特殊メイクコーティング「ISSIN(イッシン)」。皆さんはこの名前からどのような商品もしくはサービスを思い浮かべるだろうか。

これは、大垣市昼飯町にある中部カラー工業株式会社が昨年9月から新たに始めた、金属の表面に塗装・印刷を施し、石や木材、布のように加工するサービスだ。

と言葉で説明しても、なかなかイメージが湧かないだろう。下記の写真を見てほしい。

左の写真は赤のチェックの布に、右は石のように見えないだろうか。実際に触ってみると凹凸がある。布地のような柔らかい風合いやザラザラとした質感が再現されており、さらに素材感を感じられる。

他にも、木材やレザー、槌で金属を繊細に叩き出したような複雑な模様、グラデーションなどさまざまな表現ができる。これらはすべて、同じ鉄板の表面に加工されているというから驚きだ。

■コロナ禍で売上減。ピンチの時にこそ挑戦を

この加工を日本で唯一提供しているのが、アルミ建材専門の焼付塗装業として1985年に設立した中部カラー工業だ。現在ではアルミサッシや、屋外のフェンスや手すりなどのエクステリア、電車の車両部品などあらゆる工業製品の塗装に対応している。

「焼付塗装」とは、塗料を塗った後に決まった温度・時間で焼くことによって化学反応を起こし、表面に固い膜を作る塗装方法だ。この膜があることで傷がつきにくくなり、色褪せや錆などを防ぎ、耐久性が格段に上がる。

高い塗装技術でメーカーからの信頼が厚い中部カラー工業では、以前から「金属の表面に模様を塗装できませんか」という問い合わせを受けることがあった。5年ほど前に展示会で金属に様々な柄をつけられる最新技術があることを知り、柴田俊樹社長は「これはいい、やってみたい」と直感したという。しかし、機械は高価で、設置するためには広いスペースが必要だった。すぐには決断できなかった。

構想を練っている間に、コロナ禍が直撃。会社の売上は減少した。

「今やらないと、一生できない」

柴田さんは「事業再構築補助金」を活用して、思い切って攻めに出ることを決断する。昨年9月に本社敷地内に新たに専用工場を建設。念願だった、金属に加飾できる特殊な機械を導入した。

機械は国内メーカー製で専用にカスタマイズされたものを使用。インクは大手塗料メーカー大日本塗料(株)が開発したものだ。だが、機械とインクを入手すればどこでも同じことができるわけではない。

「うちの場合はもともと焼付塗装の技術やノウハウを持っていたので、機械を入れるだけでよかったのですが、塗装もいちから導入しようと思うとかなり難しい。職人の世界なので、簡単には真似できないと思います。他社が参入しにくいというのも、このサービスを始めたきっかけのひとつです。機械を買えば誰でもできるものだったら、すぐに世の中に溢れてしまうので。」

実際に大手建材メーカーが商品を自社生産しようとこの機械の導入を検討したものの、結局は断念。中部カラー工業に生産の依頼をしてきたと言う。導入から1年。今は生産能力の3割ほどしか稼働していないが、年内には7、8割まで埋まる見込みだそうだ。

■販路拡大のため、サービス名とロゴを作成

1年で7、8割、十分好スタートを切ったといえるだろう。

しかし柴田さんは、このサービスにもっと大きな可能性を感じていた。「この技術でデザインされた水筒がすごく素敵なのですが、それと同じように、私が想像もしていない、もっと広い業界で使ってもらえる可能性があると思っています。これまでお付き合いのある建築関係のお客さまには営業できるのですが、それ以外の販路をどうしたら広げられるのか。」既存の取引先以外へのPR方法を思案していた柴田さんは、2023年3月、付き合いのある金融機関の仲介でGaki-Bizに相談に訪れた。

Gaki-Bizのプロジェクトマネージャーの松浦俊介さんから勧められたのは、このサービスに独自の名前を付けることだった。大日本塗料はこの技術を「デジタルコーティング」と呼んでいる。もちろんこの名前のままでも良いのだが、「塗装や建築を知らない人にとっては、いまいちピンとこない。僕も少し考えてみたのですが、なかなかいい案が思い浮かばない。Gaki-Bizさんが一緒に考えてくれるのはありがたいなと思って、まずはそこから始めました」。

松浦さんの提案の中に、特殊メイクコーティング「ISSIN」という名前があった。「他には、魔法をかけるイメージで『メタルマジック』『エンチャント(魔法をかける、魅了するの意味)』などの案も考えました。でもエンチャントと言われても普通の人は覚えられない。わかりやすい方がいいと思いました。逆に『ISSIN』は会社名にも使われていたりするので、他にないものの方がいいのかなとも考えましたが、聞いたことのある名前の方が頭に残るだろうと決めました。」

金属の表面を、まるで特殊メイクを施したかのように一新する。まさに、名は体を表した、分かりやすい名前だ。だが、今後の会社の命運を担う大事なサービスであるがゆえに、最終決定までには、数ヶ月の時間を要したと柴田社長は明かす。

「迷いがなくなるまで、相談に乗ってもらえたのはありがたかったです。自分が納得するまで悩んで決められたので、愛着がわきます。借り物の名前ではなくて、自分たちの独自の名前ができたことで、これまでの仕事の延長線ではなく、新しいサービスができたんだと自分の中で再認識できたことも大きいです。」

ロゴマークも、Gaki-Bizのデザイナーと相談しながら作り上げていった。「5、6種類考えたと思うんですけど、ああした方がいいかな、こうした方がいいかな。でも一周してやっぱりこっちがいいかなと結構悩みました。自分で考えると自己満足になってしまいがちですけど、プロのデザイナーになぜこういう字体がいいのか、なぜこういうデザインなのか、理由を説明してもらいながら納得して決めることができました。シンプルで、とても気に入っています」。一生懸命説明する柴田さんのポロシャツの胸で、「ISSIN」のロゴは誇らしげに主張していた。

予想もしない効果もあった。「名前が決まって、ロゴができたことによって、社内での認知度が高まって。社員みんなで協力し合える雰囲気になったと感じます。」サービス名とロゴは、社外向けの販路拡大だけではなく、社内の機運醸成にもつながっていた。

相談者同士のコラボで、「made in 大垣」の商品を作りたい

柴田さんは、今後は「人々の生活を豊かにする商品を手掛けてみたい」と声を弾ませる。

「いわゆる日用品と言いますか、もっと人々の身近で愛される商品に関わることができたらうれしいです。以前、アウトドアのテーブルやカー用品の塗装をしたことがあるのですが、身近なものは使う人の反応がダイレクトに感じられて面白いです。この機械は1個からでも対応できるので、将来的にはGaki-Bizの相談者さんとのコラボで『made in 大垣』」の商品を作ることができたらいいですよね。どこかの会社の商品に、表面のデザインで魅力をプラスするようなことができたら、職人冥利につきます。」

中部カラー工業ホームページ