【Blühen(ブリューエン)】

ジェンダーギャップ解消したいという思いから、Gaki-Biz共に事業を共に作り上げる

ドイツ語で「花が咲く」という意味だそうだ。

103万円の壁、106万円の壁、130万円の壁…、配偶者の扶養内で働く人の「年収の壁」が話題となった2024年、全ての女性がそれぞれの持つ能力を発揮し、生き生きと花開く社会の実現をミッションに掲げるスタートアップ企業「Blühen(ブリューエン)」が大垣市で芽吹いた。

同社が展開するのが、社員の育児休業取得で足りなくなった人手を穴埋めするスポット業務代行サービス「ええて」。2024年11月から岐阜県内でサービスを先行開始していたが、2025年1月からは全国展開する。

このサービスは、代表取締役を務める田中結子さんの女性のキャリアにおける葛藤から生まれたものだ。彼女がGaki-Bizの支援を受けながら社会起業家として歩み出すまでを追った。

■転勤族の妻となり、キャリアが断絶

大垣市出身の田中さんは、東京外国語大学を卒業後、全国転勤のある製薬メーカーにMRとして就職した。夢いっぱいで社会に出るも、入社1年目で早くもキャリアの選択で悩みを抱えることになる。

「入社してすぐに元夫と結婚を前提に付き合い始めたのですが、同じ会社だったので、お互いに全国転勤がある。この会社にいる限り、いずれは、結婚を諦めて仕事をメインに生きるか、彼と結婚をするために会社を辞めるか、どちらを選択するかで悩む日が来ると悟りました」

「問題を先延ばしにできないタイプ」の田中さんは、早々に会社を辞め、全国転勤がある相手と結婚した後もキャリアを築いていくための道を模索する。そして、特技である英語を生かして、全国に学校がある英会話スクールで働き始める。

しかしそこでも、また別の壁にぶち当たる。サービス業のため、平日の夜や土日に出勤しなければならず、平日勤務、土日休みの夫とすれ違いが多くなってしまったのだ。さらに、全国各地に教室があるとはいえ、異動の希望を出すたびに「せっかく落ち着いたところなのにまた離れるの?」といい顔はされない。自分から望んで異動をしているわけではないのに、肩身の狭い思いをしなければならないことが精神的な負担となり、田中さんは退職を決意する。

当時の田中さんは、夫の勤務地である熊本県にいた。次の仕事を探し始めたが、書類選考は通るものの、面接の際に「どうして熊本に来たのですか」を聞かれ、「夫の転勤で」と答えると、「数年後にはまた転勤するんですね」と言われて不採用になる。受けては不採用。受けては不採用……。不採用通知を受けるたびに落ち込んだが、それ以上に、自分の能力の問題ではなく、外的な条件によって能力を発揮する機会すらもらえないことが苦しかった。

転職できないのなら、フリーランスになるしかない。幸いにも田中さんには英語という武器があった。翻訳、通訳者になるために、朝から晩まで英語を勉強し、その記録をインスタグラムに記録しはじめた。時々「転勤族の妻は働く場所がない」「こういう会社を受けたけどダメだった」という愚痴も書き込んだ。

すると、田中さんの経緯に共感する人が現れた。「私も夫の転勤について行って、仕事ができなくて辛い」「知らない土地で、友達がいなくて辛い」という同じ境遇の人からDMが届くこともあった。

実は現在ブリューエンで一緒に働いている人の多くは、田中さんが5月に会社を立ち上げ際にインスタグラムで募集したメンバーだ。インスタが英語の勉強アカウントだったこともあって、英語が得意な人が多い。「英検1級を持っている人、TOEIC900点とっている人もいます。他のメンバーも非常に優秀なのに、夫の転勤や海外駐在、または育児中などの外的な要因によって、いわゆる資本主義社会では非効率な人材としてみなされて、能力を発揮できていない。そういう人たちと一緒に仕事をしたいという思いはずっと変わりません」。

■Gaki-Bizでの前向きな言葉で起業を決断

田中さんはフリーランスで通訳・翻訳業務を続けた後、東京のIT企業から役員付きの専属通訳兼秘書としてのオファーを受け、入社。役員秘書、経営企画、海外事業開発責任者を経験した後、その企業グループを束ねるホールディングスの代表取締役CEOに就任した。

2023年の夏にその会社のCEOを退いた田中さんは、プライベートでの変化もあって、実家のある大垣市に娘さんと一緒に戻った。ゼロから何かを始めたいと、大垣商工会議所が主催する「創業塾」に通い始め、そこでGaki-Bizを紹介された。

「何をするか全く決まっていなかったのですが、一度考えていることだけでも伝えに行ってみようかなと相談に行ったのが最初です。正直、創業塾に行った時も、Gaki-Bizに行った時も、事業を立ち上げるかどうかは決めていませんでした」

ただ、かつての自分自身のように、自分の能力を発揮する場所がなくて、苦しい思いをしている転勤族や海外駐在者の奥さんと一緒に仕事をしたいという思いは抱き続けていた。その気持ちを、正田嗣文センター長にぶつけた。 「私が一方的にわーっとしゃべったんですけど、正田さんから『社会全体の課題でもあり、すごく共感ができます。頑張ってほしい』とポジティブなフィードバックをいただいて、すごく自信になりました。もしあの時に少しでも厳しいことを言われていたら、考え直していたかもしれません。正田さんの言葉があったから、起業することを前提に、前向きにいろいろなことを準備できたと思います」

大垣弁で「大丈夫だよ」「任せておいて」を意味する、育休取得時の業務代行サービス

個人事業主として、通訳・翻訳の仕事などをしながら、起業に向けて動き出した田中さんは、2024年5月にブリューエンを設立。企業からアウトソーシングでさまざまな業務を請負い、それを全国各地にいるメンバーに業務委託。1日に2時間しかできない、週に3日しかできない、子供が寝た後の夜の時間しか働けないなど、メンバーの希望する条件をパズルのように組み合わせて、チームで仕事をして仕上げていく組織を作り上げた。

「苦しい思いをしている転勤族や海外駐在者の奥さんと一緒に仕事をしたい」という長年の願いは実現できた。しかし、そもそもそうした苦しみがうまれてしまう根本的な原因にまではアプローチできていない。「隠れたジェンダーギャップ」を解消するために、「家族の人生に合わせて、働く機会を模索しなければいけない状況を強いられる女性がいるということを可視化し、行政や経営者に提言したい」と考えていた田中さんは、さらにここから会社をどうしていけばいいのかと正田さんに相談した。そしてそのとき、田中さんが言った何気ない一言から、ブリューエンの核となるサービスが生まれる。

「思いつきで『男性の育児休暇取得推進を後押ししたい』と口にしたんです。なぜなら、女性のキャリア継続の一番の障壁になっているのが出産で、それが結果としてジェンダーギャップにつながっている。だから、男性の育休取得を後押しすることをうちの会社でできないかと正田さんに相談しました」

その話を聞いた正田さんは「業務をアウトソーシングできる会社は他にもあるので、業務代行をしますというだけでは、企業側はどこに何をいつ頼んでいいのかわかりづらい。育休取得時に頼む会社、という利用シーンを明確にすることで、企業側も頼みやすくなるし導入企業は採用における対外的PRにもなる。さらに、田中さんの持つ「ジェンダーギャップの解消」という思いの実現にもつながる。これを1つのサービスとして打ち出しましょう」と提案する。

サービス名の「ええて」は大垣弁で「大丈夫だよ」「任せておいて」の意味。「この名前も正田さんと一緒に考えました。私一人で決めていたら、英語とかカタカナとか、もっと固い名前になっていたと思います。アイデアを出し合う中で、移住組の正田さんが『この地域の方言であったかい感じがいいと思うな』とおっしゃったんです。『ええて』は、響きとしても可愛いし、社員の方に『休んでもいいんだよ』『大丈夫だよ』というメッセージを伝わる、いい名前になりました」。

さらに正田さんは、このサービスを売る営業をするのではなく、業務提携する会社を増やし、必要なときにいつでも頼める関係性をまずは構築する方が良いのではとアドバイスした。

「今すぐに何かを頼むということではなく、社員が働きやすい環境づくりをしていく活動の一環として、わたしたちと業務提携をしていただく。そうすれば社員の皆さまも育休取得をしやすくなり、それが離職防止に繋がったり、採用時にもアピールしていただける。全く私の中にはなかった発想だったので、本当にGaki-Bizさんのおかげです」

その第1号として、同じGaki-Bizの相談者であり、女性活躍を応援している株式会社リリフルと業務提携したことも大きかったと田中さんは感謝する。「正田さんから、私の事業に興味を持ってくれそうな保育事業を展開しているリリフルさんのことを知り、さらにリリフルさんが業務委託している企業に紹介していただけたことは、本当にありがたかったです」。

女性をエンパワーメントすることで地域経済を活性化し、豊かな社会を創造するために、まだまだやりたいことがたくさんあると話す田中さん。

「自分が実現したい社会の姿が明確にあれば、サービスや事業はそこからいろいろな形で展開できます。「こんなことをしてみたい」とGaki-Bizに相談すれば、サービスが具現化されるところまで引っ張ってもらえる。私のやりたいことを理解した上でアドバイスをいただけるので方向性がぶれることもない。だから起業して1年でここまでスムーズに進むことができました。まだ小さい会社ですけど、これからも着実に前進して、自分の会社の利益だけでなく、街全体の発展につなげていけたらと考えています」

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