【朝日屋】

60年の味に、外の風を。2代目と3代目が作り上げた、新たな看板メニュー

大垣駅北口から徒歩15分ほどのところにある「手打ちうどん 朝日屋」。2025年4月、創業60周年を記念して販売を開始した新メニューが話題となっている。

「復刻サラダうどん」

涼しげなガラスの器には、鮮やかなグリーンのアボカドが半個分。レタス、水菜、プチトマト、温泉卵がこんもりと載り、下のうどんが見えないほど。特製ドレッシングとマヨネーズでさっぱりと食べられ、地元・大垣名物でもある『名水わさび』さんの高級ワサビの辛味と香りが爽やかなアクセントを加える。ドレッシングとわさびでキリッと、マヨネーズや温玉を混ぜ合わせてマイルドに。野菜も麺も組み合わせによって何通りにも味わいが変わる、楽しいひと皿だ。

▲写真は、豚しゃぶがトッピングされた「豚肉入りサラダうどん」

この懐かしくて新しいメニューは、2代目の長女との結婚を機に厨房に加わった3代目の舘清久さんが大垣ビジネスサポートセンター(Gaki-Biz)の助言を得て作り上げたものだ。

「朝日屋」は昭和40(1965)年にうどん屋として創業した。看板メニューは、毎年大寒の日に仕込み、1年熟成させた自家製味噌を使った「味噌煮込みうどん」。取材に訪れた日は、伊吹おろしが吹き付ける寒い日だったが、今まさに火から下ろされたばかりの、ぐつぐつと煮え立ったうどんが、冷え切った身体をじんわりと温めてくれた。大垣で長く愛されてきた理由がよくわかる。

夏は「うな重」。三河一色産のうなぎを30年継ぎ足しの秘伝のタレを使い、炭火で焼き上げる。いずれも2代目が開発し、お店を代表するメニューとなった。

初代、2代目と丁寧な仕事が評価され、常連客を増やしてきたが、「売上は横ばいか、少しずつ右肩下がり。将来自分が店を引き継ぐことを見据え、新たな客層を増やし、もっと売上を伸ばしたい」と考えた3代目は、2025年の3月終わりに初めてGaki-Bizへ赴いた。

「相談時間が1時間しかないので、もったいないじゃないですか。だから、Gaki-Bizに行くと決めてから、現状の問題点や悩み、僕がやりたいと考えていることなどを全部エクセルにまとめました。『夏場の集客がしんどい』『若い女性向けのメニューが少ない』とか、全部で2、3ページになったかな。ちょっと作り過ぎたかなと思いながら、それを持って相談に行きました」

Gaki-Bizの正田嗣文センター長と話し合う中で、近年うな重の売り上げが芳しくないことを踏まえ、夏の新メニューを考案することに決まる。「僕自身が夏バテをするタイプなので、自分が食べたいもの」を考え、食欲がない時にもさっぱりと食べられる「サラダうどん」がよいのではないかという話にまとまった。コロナ禍を経て健康に対する意識が年々高まっており、また朝日屋の道を挟んで向かいにコンビニジムがあるため、食で健康にコミットしたい女性客を取り込めるのではという期待もあった。

受け継いだ味に、自分の色を。「復刻サラダうどん」完成

Gaki-Bizから帰った舘さんが、2代目に「サラダうどんを出してみたい」と話すと、なんと15年ほど前にサラダうどんを提供していた時期があったことが判明。2代目が考案したサラダうどんは、アボカドがトッピングされていて、ごまドレッシングをかけていただくものだったそう。

そこで、アボカドはそのまま継承。「うちはうどん屋なので、どうしても出汁を使いたかった。出汁をベースにして、その上にオリジナルのドレッシングを好みでかけるスタイルにしました」という舘さんのアイデアをプラスした。味噌煮込みうどんにも使っている、サバ節・うるめ節・いわし節・宗田鰹・道南昆布で引いた旨味たっぷりの出汁は、それぞれの素材を一つにまとめる役割を果たしている。

「ドレッシングに使う油にもこだわりました。胃もたれせず、血圧を下げる効果があると言われている米油を使って、より健康を意識したメニューに仕上げました」

わさびは2代目のサラダうどんにもついていたが、「正田さんから大垣産のわさびがあることを教えていただき、『名水わさび』さんの『真妻わさび』を添えることにしました。他にも、正田さんからはサラダうどんの有名店の情報を教えていただき、取り寄せて参考にしたりして、ヒントをいただきました」。

そうして、2代目と3代目、Gaki-Bizのアイデアを掛け合わせた、60周年の記念にふさわしい「復刻サラダうどん」が完成。ゴールデンウィークに本格的に販売開始することを見越し、オペレーションの試運転も兼ねて2025年4月18日から販売を開始した。

「うちは常連さんが多くて、常連さんは基本的に食べるものが決まっているので、新メニューを出してもあまり売れない傾向があるのですが、復刻サラダうどんは連休明けくらいから徐々に売れ始めました」

Gaki-Bizのサポートを受けて、プレスリリースを送り、新聞やケーブルテレビの取材を受けたことも人気を後押し。インフルエンサーも次々と来店し、その影響もあってか、新規で訪れる若いお客さんが増えた。

「スタミナのうなぎ、さっぱりのサラダうどんと、夏場の新たな柱となるメニューが出来ました」

若い女性をメインターゲットに開発したメニューだったが、予想外に男性の心も掴んだ。

「40代、50代くらいの男性が2人で来て、2人ともサラダうどんを注文してくださったり。ご夫婦で来て、奥さんの方が頼まれるかなと思っていると、意外にも旦那さんの方が注文されるケースが多いんですよ」

外部の視点がもたらした、数字以上の「成功体験」

夏場の売上アップもさることながら、この成功体験は、舘さんの大きな自信となった。

娘婿である舘さんは、結婚前は自動車販売の会社員で、全く畑違いの仕事をしていた。「いずれは継がなければいけなくなるだろうということは頭のどこかにはあったので、それならば早いほうがいいかな」と22歳の時に朝日屋に入るも、「結婚前は実家暮らしだったので、料理の経験はほぼ皆無でした」。まさにゼロからのスタート。「『包丁はこうやって握るんだよ』くらいで、入った初日から『とにかくやって覚えろ』と」、職人気質で口数の少ない義父を手伝いながら、見様見真似で覚えていった。

「感覚の世界なので、言語化するのが難しい部分はあります。でも僕は工業高校の出身なので、例えば『小さい』と言われても、5cmなのか、10cmなのか20cmなのか、数字で理解したいタイプ。その違いに最初は戸惑いましたね」

それでも、「やるしかなかった」。料理の世界に入って2026年で11年目、徐々に2代目の信頼を勝ち取り、今では仕込みも調理も仕入れも半分以上を任されている。

今回、初めてメニュー開発をしたことで、図らずも2代目と話をする機会が増えた。2代目の意見を取り入れながら、3代目が主体となって作り上げたサラダうどんがお客さまに好評で、新聞やテレビで取り上げられるという目に見える結果を出したことで、さらに信頼を高めていった。

「何より大きかったのは、外部の人の意見を取り入れて、それがうまくいったという実績です。今まではやってこなかったことなので。
僕がGaki-Bizさんを知ったのは最近のことですけど、おそらく父は知っていたと思うんです。それでも、外部の意見を取り入れたくないという職人的な感覚もあって、行かなかったと思うんですね。そういう意味では、今回の経験は朝日屋にとっても大きな一歩になると思います」

職人気質の義父と理系の娘婿。アプローチに違いはあれど、思いは同じ。お客さまに美味しく食べてもらいたい。60年大切に積み重ねてきたこだわりと外の風を取り入れる柔軟さ。その交わりが、朝日屋の新たな60年を作っていくのかもしれない。