【太陽建材】

自身の特技や経験が社会貢献に。自信を取り戻し、社内での存在感も増す

輪之内町にある太陽建材株式会社。1988年の創業以来、内装工事を中心に建築工事全般の現場管理や施工を地域密着で行ってきた。

同社の創業者で現社長の息子が行う社会貢献活動が今、多くの賛同を得て、地域のあちらこちらで芽吹いている。それはGaki-Bizの正田嗣文センター長が初対面で見つけた小さな種から始まりました。

初対面。緊張の2つの理由とは

2021年1月、外出を躊躇するほどの大雪だったことも含めて、Gaki-Bizのセンター長・正田嗣文さんは土井田一将さんと初めて会った日のことを印象深く覚えている。「自分から話を切り出すこともなく、とても緊張している様子でしたね」。

金融機関の担当者から「コンサルティングが無料で受けられるので行ってみませんか」と誘われた土井田さんは、社長である父と相談し、「コロナ禍で内装の仕事にも影響が出ていたので、ダメ元で」Gaki-Bizの出張相談会に行ってみることにした。口数が少なかったのは緊張に加えて、Gaki-Bizがどんなところか事前知識がなかったことも影響していた。

そこで正田さんは、土井田さんの緊張をほぐすため、最初からビジネスの話をするのではなく、土井田さんのこれまでの経歴や興味、家業に戻ったきっかけなどの話を聞き、場を和ませていった。

話を進める中で、土井田さんの緊張には、大きく2つの理由があることが分かってきた。一つは吃音があり、初対面の人と話すのが苦手だったこと。もう一つは30歳を過ぎてから家業に入り、会社での自分自身の立場に自信を持てずにいたからだ。

「最初にお会いした時は、自分はもっと暗かったと思います。母を亡くした後でしたし、会社に戻ってはきたけれど、立ち位置が中途半端で……。2代目ってあまりいいイメージがないじゃないですか。自分は吃音症があるし、周りの目を気にして、また吃音症がひどくなり、社会と繋がっていく自信もなく、悶々としていました。そうした悩みを打ち明けるうちに、なぜか以前は絵を描いていたという話になりました。」

正田さんは「絵について話している土井田さんが一番楽しそうだった」ことを見逃さなかった。そこで、次回相談時にはこれまで描かれた絵を見せてほしいと伝える。

学生時代に吃音や上手くコミュニケーションがとれないなどの原因でいじめにあい、不登校になったこともある土井田さんにとって「絵は一つの発散方法だった」という。「例えばスポーツをすると疲れるのと同じように絵を描いていると疲れてくる。悩んでいると苦しいので、少し言葉は悪いですけど“時間稼ぎ”という側面もあったように思います」。高校卒業後は、東京の美術の専門学校に進学。「絵を描くことは好きですが、作家を続けるとなると、それで何を表現するかが必要になってくる。自分はそれが見つけられなかった」。2014年まで東京で作家活動を続けるが、絵を描くことをやめて岐阜に戻り、父が経営する太陽建材の仕事に携わるようになる。

絵という特技を会社のCSR活動に

地元に戻ってからは、しばらく絵からは離れていた。Gaki-Bizの正田さんから「次回は絵を見せてほしい」と言われたのをきっかけに、数年ぶりにキャンバスを購入する。

描いたのは「双葉」。東京では伝えたいことが見つけられなかった土井田さんだったが、不思議なことに双葉のイメージが舞い降りてきたのだと言う。「母を亡くしたことをきっかけに、当たり前にある幸せをいかに見落としているか気がつきました。特別なことをいつの間にか当たり前だと思ってしまっていた。双葉は当たり前すぎて見落としがちなものを表しています。絵の世界って不思議で、悲しみや苦しみが逆に明るかったり、美しいものとして表れることがまれにあります。」

誰かが見落とした「当たり前」の種からどのような芽が育つのか。オレンジの明るいエネルギーがマグマのように広がっていく力強い双葉があれば、夕焼けを反射した海のような柔らかでみずみずしい芽吹きを見せる双葉もある。いずれも観る人が自由に想像して、自分なりの双葉を感じられるようになっている。

大切なことは人それぞれ違います。それはなくなってはじめて実感するものです。私達は、忙しいかもしれませんが、それに備えなくてはならないと思います。(土井田さん)

 Gaki-Bizの正田さんは、土井田さんの絵とそのコンセプトに感動を覚えた。この特技を趣味のままで終わらせるのはもったいない。そこで正田さんは会社の「CSR(Corporate Social Responsibility/企業の社会的責任)」としてアート活動をしていくことを提案する。

自分の絵がどのように会社のCSR活動につながるのか半信半疑だった土井田さんだが、太陽建材が大切にしてきた5つのこころ「素直な心・感謝の心・謙虚な心・奉仕の心・明るい心」と通じるところを感じ、正田さんと一緒にコンセプトや方向性を練り上げていった。

「Gaki-Bizさんはビジネスサポートセンターなので、当然ビジネスの提案が主だと思います。でも直接ビジネスに結びつかない僕の特技を、否定することなく、生かそうとしてくださいました。『会社のCSRになるから一緒に考えていきましょう』と背中を押してくださいました。この活動がうまくいくかいかないかは別として、価値を認めてくれたこと、次の可能性を見せてくれたこと、それがなければ、ここまで活動することはできませんでした」(土井田さん)

「温かい世界を広げたい」

 CSR活動のコンセプトは「双葉を通して見る世界」に決まった。土井田さんは作品を制作するとの同時に、会社にも説明して活動への理解を得ていった。Gaki-Bizを紹介してくれた金融機関が展示スペースの提供を申し出てくれて、2021年10月に約1ヶ月間、本社のロビーで最初の作品展示を開催した。

その後もGaki-Bizは相談に訪れる事業者の中で、コンセプトに共感し、展示スペースを提供できそうな企業を次々と紹介。情報発信もサポートし、新聞で紹介されるなど認知度向上を図った。「Gaki-Bizさんには色々なところとつなげていただき、展示を見た方から次のお話をいただいてというように活動がつながっていきました」と土井田さんは目を輝かせる。22年6月1から8月31日まで大垣イオンタウンで、「双葉を通して見る世界展」が企画展として開催されるなど活動の輪は広がっている。

展示会場の一角には、チケットと葉書が置かれている。大切な人を思い出した時に、その温かい気持ちをチケットや手紙に書いて贈るという行動につなげてもらうためだ。「人類の後悔の総量を減らし、温かな気持ちを流通させることで、より温かな世界、未来を作っていきたい」と土井田さんは願っている。

CSR活動を通じて、思わぬオファーも舞い込んだ。22年4月から不登校生の自立を支援する学校法人西濃学園で美術の特別授業を担当することになったのだ。「西濃学園の校長先生は、20年くらい前に僕自信が不登校で悩んでいた時にお世話になった方です。双葉の活動を始めて、何か恩返しができるのではと考えていた時に、授業をやってみないかというお話をいただきました」。

土井田さんが絵を描くことで救われたように、「生徒たちが自由に描くことで言葉にできない思いを表現し、リハビリになれば」と意欲的に取り組んでいる。来年には授業で出来た作品の展示会も予定しており、「生徒たちのためだけでなく、彼らを支えている人たちの笑顔をつくれたら」と期待を膨らませる。

会社のために、社会のために。CSR活動は自分なりのコミュニケーションツール

CSR活動は、一般的には直接会社に利益を生まない活動だ。しかし土井田さんは「これもプラスになっている」と語る。「例えば、可能性が広がる要素って出会いだと思うんです。そういう意味では、CSR活動を通じて内装の世界では出会えない方たちに会うことができています。最初からビジネスだと構えてしまうところがありますが、違う形で出会うといつもとは違う人間関係を築くことができます。

そして企業が社会に対してより良いことを提案できる。そういう考えを持っていることは、本業だけではできない社会との繋がりが生まれるきっかけとなります。

「Gaki-Bizに行く以前は、自分は社会とつながっていませんでした。それを自分が歩んできた人生というものを使って、社会とつなげていただきました。父が作り上げてきたものがあって、自分はどうするのか悩む中で、双葉の活動を通じて、色々な面白い方たちと出会い、自分らしくあってもいいのかなと少し道が開けました。」 2代目だから、吃音症があるからと気にしていた土井田さんは、自分なりの会社への貢献の仕方を見つけ、社内そして社会での存在感を高めている。

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太陽建材株式会社CSR活動報告