増元美容院/金木犀

過疎地域に若者が集まり始めた、事業承継者の挑戦

約5年前、都会から揖斐川町にUターンした美容師の増元章人さん。2021年1月に揖斐川町の久瀬エリアで祖母が営業していた『増元美容院』を継ぎ、高齢化が進む同町で需要があった訪問美容をスタート。その取り組みの面白さからメディアで取り上げられることも多く認知度も上昇。現在は、若い世代をターゲットにした店舗営業にも力を入れ、オーガニックについて学んで施術メニューを増やすことで、自然豊かな揖斐川町にある美容院ならではの魅力を発信している。他の美容院にはないユニークな視点から自身の店舗運営を行う増元さんに、Gaki-Bizとの関わりや今後の展望について伺った。

祖母の美容院を引き継ぐ

揖斐川町東津汲にある『増元美容院』。訪問美容専門『金木犀』の由来は増元さんが生まれた年、サロン横に植えられた金木犀の木に由来している。

元々は兵庫県西宮市で美容師をしていた増元さん。Uターンの転機になったのは、父方の祖父が亡くなったことと、結婚が決まったことでした。岐阜に戻ってきた当初は、岐阜市内の美容室で勤務する傍ら、休みの日に祖母が揖斐川町の山間部で営む『増元美容院』を手伝いにきていたそう。「いずれは自分のお店を持ちたいな」と考えていた増元さんですが、拠点を構えるには資金面でも大変で、子どもが生まれた時期とも重なったことから、祖母の美容院を継ぐことが選択肢に上がったのだと言います。

「祖母からは引き継ぐなと言われていたんですが、手伝いをさせてもらう中で、高齢化が進む町で訪問美容の需要があることがわかったし、何より自分自身が自然豊かでのんびりした雰囲気のある町で働くことが心地よくて、ここでなら自分のやりたい店の形を実現できるかもしれないという気持ちになり、継がせてもたいたいと申し出たんです」

2021年1月、祖母の美容院を正式に引き継ぎ、外出が難しい高齢者の自宅や施設に訪問し、美容サービスを提供する訪問専門の美容院『金木犀』を立ち上げました。

店舗運営のベースを作るため、ガキビズに相談に訪れる

元々の店舗の良さを生かし増元さんがインテリアなどに手を加えた店内

自身の店舗を開く運転資金を得るため、増元さんはまず大垣西濃信用金庫に訪れます。事業を行うにあたり実績や事業計画のベースが出来上がってなかった増元さんに勧められたのがGaki-Bizに相談に行くことでした。

Gaki-Bizで相談を受け、まずは事業計画作りに必要な知識を学ぶため、参加することを決めたのは、大垣商工会議所が主催する「創業塾」でした。マーケティングの必要性やIT活用法、収支計画の立て方などについて学び、事業計画を明確にしていきました。

その後、Gaki-Bizがサポートしたのは、オリジナリティの明確化でした。事業計画書は形になっても、それを具現化していくためには、選ばれる理由が必要です。選ばれるためには、お店の特徴を知ってもらうこと。その点でGaki-Bizは増元さんの技術はもちろんのこと、「山合いの祖母の美容院を引き継ぎ、訪問美容を始めた」というストーリーに着目しました。都会で腕を磨いた若者が過疎地域でチャレンジを始めるということに人は関心を持ち、その開業の想いに、共感すると考えました。だからこそ「なぜここでチャレンジするか。」をしっかりと情報発信していくことを提案しました。

新聞社やテレビ局から取材が増える

祖母から引き継いだ『増元美容院』の前にて
祖母から引き継いだ『増元美容院』の前にて

事業承継のストーリーを発信するようにしたところ、早速新聞2社から取材依頼が入りました。新聞に取り上げられたことで、NHK岐阜放送局や大垣ケーブルテレビの番組出演にも繋がり、認知度を一気に高めることに。

PRすることの重要性を実感した増元さんは、Gaki-BizからのアドバイスでInstagramを立ち上げて情報発信することにも力を入れていきます。元々は訪問美容専門で事業を行うつもりでしたが、美容院として生計を立てていくためには訪問美容だけでなく、店舗営業にも力をいれないとと考えていた増元さん。Instagramで情報発信することにより若い世代の集客も見込めるのではないかと考えたのだと言います。

揖斐川町の美しい景色の中で撮影した写真を投稿した『増元美容院』Instagram

Instagramには、増元さんの表現したい世界観の写真を厳選して投稿。揖斐の川や近くの「恋のつり橋」など、自然豊かな揖斐のロケーションの中で髪を切っている様子などを撮影し投稿すると、それを魅力に感じた若い客層の来店が増え始めました。

「Instagramで見つけて来店してくれる人がいるというのは驚きでした。大手美容集客サイトに登録せずとも、今はSNSで見つけてきてくれる時代なんだなということを実感したし、自分の思いを発信して、それに共感して来てくれる人がいるってすごいことだなと思ったんです」と増元さんは話します。

今2023年1月現在、『増元美容院』の来店客のおよそ9割は20~30代の若い来店客になり、その合間をぬって地域の訪問美容に出かけるようになったそう。

ハーブを取り入れた「自然派美容」に力を入れたい

ハーブの施術を行うために、自家製のドライフラワーハーブも作る増元さん。

現在増元さんが力を入れているのは、オーガニックについて学んで施術メニューを増やすことです。都会で美容師として働いていた時にカラー剤アレルギーで手荒れに悩んでいた過去を持つ増元さん。薬品を使うことが多い美容業界ですが、揖斐川町で美容院を始めて出会ったのが植物を使ってヘアカラーを行う草木染めでした。

「天然成分100%草木染め」のメニューも用意していることから、オーガニックに興味を持って来店してもらえることが多く、お客さんとの会話や地元の人と話している中で、「ハーブなどに着目したオーガニックな施術をもっと極めたいし、和製ハーブの栽培の文化がある揖斐川町にある美容院にはぴったりのブランディングなのではないかと思うようになった」のだと言います。

増元さんは滋賀県長浜市にあるオーガニックに特化した美容施術を教える学校で学び、ハーブやアロマの知識も身に着けました。今では、地域の特性を活かそうと母方の祖母の休耕田を整備し、地元の若者たちとハーブも栽培しています。

ハーブリンスの施術のためにハーブをブレンドしていく増元さん。

増元さんは「ハーブリンス」というメニューを開発。お客様の症状に合わせてブレンドしたハーブをお湯で煮だし、そのハーブ水を頭皮に掛けて頭浸浴をするメニューです。数種類のアロマから好きな香りを選んでいただいて、直近の心と体の状態を読み解くことも行うハーブリーディングも行い、ハーブ水とアロマオイルでよりリラックス効果を高めるように努めているそうです。

「目の前でお客様に薬草を見せてブレンドしてあげるとライブ感があって興味を持ってもらえるし、揖斐川町の春日地区でとれた薬草なども使っているのでその説明をしたりすると、揖斐川町自体に興味を持ってもらえたりもするんです。揖斐川町で美容院を行っているからこそできる施術であるなと実感しているし、これを目的にわざわざ来て下さる方もいるのではないかと考えています」と増元さんは話します。

揖斐川町を盛り上げることも、ここで商売をする自分の努め

ドライフラワーやハーブ液などが飾られた店内

「揖斐川町にUターンして、山合いの地で美容院をしてみて気づいたのは、横のつながりの大切さです。良くも悪くも美容院の競合相手はいないので、自然と他業種の方との繋がりが増えるのですが、みな地元を盛り上げたいと思っている人たちばかり。フェスやマルシェを開催しようという話も出ているし、それが実現させやすい環境だなと思っています。揖斐川町の認知度を高めることで、自然と『増元美容院』も有名になっていくと思うし、地元のために貢献することが結局は自分のためにもなるんだということがわかってきたんです」

今、増元さんは自身が作ったヘアクリームやヘアバターをマルシェに出店して販売することも始めています。今後は、地元の有志と朝市を開く計画もあるのだといい、そこで生ハーブも売りたいと計画しているそう。

手作りのハーブ水もお店に並ぶ

「サステナブル」という概念が多くの人に注目され、今後は“健康”や“よりよく生きる”ということがキーワード になってくると考えている増元さん。ファッション業界は既に「サステナブル」な動きが始まっているものの、美容院の業界はそのような取り組みはまだ遅れていると感じており、自身が取り組む、薬品を使わない草木染めや、出涸らしのハーブを家に持ち帰って入浴時に再利用してもらうこともできるハーブリンスのメニューなどはまさに美容業界のサステナブルをけん引する一つの商品になると考えているとのこと。

将来の展望も決まり、着実に揖斐川町での新たな美容院の運営を始めた増元さん。2023年5月には、オーガニックの施術メニューを増やし、店内改装などリニューアルオープンする予定。今後の展開が益々期待されます。

■増元美容院/金木犀

ホームページ https://hair-trip-kinmokusei.com/

SNS https://www.instagram.com/trip_hair_kinmokusei/