【フォンテンブロー】

創業50周年を機に積極的なプロモーションを仕掛け、コロナ禍でも堅調

海津市役所の向かいにある、レンガの壁が印象的な洋食店「フォンテンブロー」。モーニング、ランチ、ディナーと、どの時間帯も常連客でにぎわい、土日ともなると遠方からわざわざ訪れる客も多い。

長年愛されてきた名店が、2021年創業50年を迎えたのを契機に新聞やテレビに度々取り上げられるなどさらに注目度を増している。新型コロナウイルスの影響により、飲食業界が時短営業や休業を強いられる中、なぜ「フォンテンブロー」はコンスタントにメディアで紹介され、認知の拡大、新規顧客を獲得することができたのだろうか。仕掛けたのはお店の広報担当の伊藤有里さんとGaki-Bizの松浦俊介プロジェクトマネージャーだ。

海津市のソウルフード「ギスパ」が人気の洋食店

「フォンテンブロー」は1971年に店主の伊藤正男さんが喫茶店「ギオン」としてオープン。95年に石窯ピッツァと洋食を提供する店にリニューアルし、現在は息子の正登さんとともに親子2代でお店を営んでいる。

看板メニューは海津市のソウルフードとも言われる「ギオンオリジナルスパゲティ」。通称「ギスパ」。太めの麺を香味野菜と牛すじをコトコトと煮込んで作った自家製のデミグラスソースとケチャップで味付けし、仕上げにチーズをたっぷりとのせる鉄板スパゲティだ。名前が表している通り、「ギオン」の開店当初から高い人気を誇り、店のリニューアルを機に一度はメニューから消えたが、お客さまからの要望が相次いですぐに復活した。

もう一つの自慢が、石窯で薪を使って焼き上げる本格的なピッツァだ。もちもちで小麦の甘さが感じられるナポリ風の土台に、数種類をブレンドしたモッツァレラチーズ、オリジナルのトマトソースを使用するなどトッピングにもこだわっている。今は主にピッツァを父の正男さんが、それ以外を正登さんが調理している。

接客とホームページやSNSの発信など広報は、正登さんの妻の有里さんが担当する。Gaki-Bizに相談に訪れたのも有里さんだった。お店のお客様でもある、海津市でトマトの生産を営む若手農家3人組「スマイルふぁーむ」から評判を聞き、早速予約を入れた。

「スマイルふぁーむさんが会社を設立する際に、Gaki-Bizさんにホームページやチラシの作成、プレスリリースの書き方など多岐にわたってサポートしてもらって、良い滑り出しができたと聞きました。うちのお店のチラシやホームページは全部私が作っているので、少しでも改善できればと期待していました」

有里さんは、数年前にテレビの取材を受けた時に「集中して一気に作った」というホームページの他、Instagram、Facebook、twitterのSNSを駆使してお店のPRをしてきた。「これまでは見よう見まねでなんとなく対応してきた」が、Gaki-Bizのデザイナーのアドバイスを受けて「方向性を見つけられた」と喜ぶ。

50周年を機に、「ギスパ」のプレミアムメニューを発売

プロモーションの具体的な方法を学ぶこと以上に、有里さんが期待していたのは「外からの刺激」だった。結婚を機に海津市で生活するようになった有里さんは、フォンテンブローは営業時間が長いこともあり、お店から一歩も出ない日もめずらしくない。「お客さまやママ友と話すことはあっても、経営者ではないので商工会とのつながりもほとんどありませんし、仕事に関する深い話をできる相手がいなかったんですね。外の世界との交わりがないので、新しいことを取り入れたくても自分の固定観念をなかなか変えられずにいました」と危機感を持っていた。

「Gaki-bizの松浦さんはいろいろな引き出しを持っているので、その中から『これなら自分の店に落とし込んでいけそうかな』というアイデアをいただいて、少しずつ取り入れている感じです」

Gaki-bizからの刺激により実現したのが、創業50周年記念メニューの「ギスパ・ザ・プレミアム」だ。

ギスパ・ザ・プレミアム

2021年、喫茶店「ギオン」から数えて50年を迎えるにあたり、有里さんは記念イベントを実施したいと考えていた。「記念に何かしたいという思いはあったのですが、自分の中にはアイデアがなさすぎて……。松浦さんに投げたというか(笑)」。

「なるべく割引はしたくない」「お店の名前が入った鉄板が作れないだろうか」などブレインストーミングを繰り返す中で、「実は常連さんにはカレーも人気なんですよ」という有里さんの一言をきっかけに、創業当時から愛され続けている「ギスパ」と4日間かけて煮込んだ自家製カレー、ライスをセットにした特別メニューが誕生。松浦さんが「ギスパ・ザ・プレミアム」と命名し、1ヶ月間限定で販売すること決まった。

濃い味付けのギスパをご飯に乗せるのは、まかないとしてスタッフにはお馴染みの食べ方。意外にもギスパとカレーは相性が良く、ひつまぶしのように組み合わせ方によって何通りもの味を楽しめる。

SNSでは「自家製カレーとギスパめちゃめちゃ合う」「期間限定とか言わないで」というコメントが寄せられるなど話題となった。さらに「以前からずっと気になっていた。スマイルふぁーむさんから聞いて、学びたいと思っていた」(有里さん)プレスリリースをGaki-bizのアドバイスのもとで作成して配信。岐阜新聞、中日新聞に取り上げられ、それを見た昔からのお客さまが親子3代で食べに来たこともあったという。

お店を象徴するメニューで、これまでお店を愛してくれたお客さまとともにメモリアルイヤーを祝えただけでなく、カレーという新たな魅力も発信できた。新聞での発信により、認知の拡大や新規顧客の獲得に成功。さらに”思い出し需要“も喚起することができた。50周年イベントは成功裏に終わった。

期間限定のご当地メニューで、継続して話題を提供

50周年の良い流れを、単発で終わらせてしまってはもったいない。そのためには、次の一手を打ち出す必要があった。有里さんには継続的して新しい企画を打ち出していきたい気持ちがあったが、あまりに調理場に負担がかかるようでは持続していくことは難しい。

そこで目をつけたのは、ギスパと並ぶ看板メニュー、薪を使って焼き上げる石窯焼きピッツァだった。トッピングであれば、盛り付け担当の有里さんの裁量で進められる。これまでにも「かぼちゃとサツマイモのクリームピッツァ」「パプリカのカラフルアラビアータ」「イチゴとバナナのデザートピッツァ」など旬の食材を使った期間限定のピッツァを販売していた実績もある。

松浦さんは、これまでに好評だった期間限定トッピングの中から、「フォンテンブロー」らしさを強調するため、地元の特産品を使ったピッツァをピックアップ。「この土地」シリーズとしてまとめて販売することを提案した。

「この土地」シリーズの第一弾は、21年11月に販売した「カラフルトマトとルッコラのサラダピッツァ」。素焼きピッツァに前述の「スマイルふぁーむ」のカラフルトマトと、同じく海津市の若手農家である岡田農園の無農薬で育てたルッコラをたっぷりとのせ、自家製ドレッシング等で味付けしてサラダ風に仕上げた。20年11月中旬から3月下旬の期間限定で発売した際には、「あのピッツァありませんか?」と問い合わせをいただくほどの人気があり、復活には喜びの声が挙がった。

カラフルトマトとルッコラのサラダピッツァ

第二弾は、津島市のかとう農園産のゆめのかという、糖度17度のイチゴを1パック贅沢に使った「山盛りイチゴのデザートピッツァ」。直径約20cmのピッツァに平田町の近藤養鶏場の卵で作ったカスタードクリームと生クリームを塗り、大粒のイチゴを12粒以上たっぷりとのせた。

山盛りイチゴのデザートピッツァ

第三弾の「もろこのピッツァ」は、川魚の一種であるもろこの佃煮を石窯焼きピッツァにトッピング。木曽三川に囲まれ、昔からナマズやコイなど川魚を食してきた海津市ならではの一品だ。江戸時代創業の老舗「かね善」のもろこの佃煮とチーズと大葉の組み合わせが絶妙で、海津市観光協会の『かいづの逸品』に認定されている。

もろこのピッツァ

「この土地」シリーズは第1弾、第2弾とも新聞で紹介され、とりわけ“SNS映え”するイチゴのピッツァは「ネットを見た」というお客様で1日2枚限定が予約で完売する日が続くほどの話題となった。コロナ禍でテイクアウトの需要が増えたことも重なり、売上アップにもつながった。

今後もこのシリーズは継続予定で、「Gaki-bizには相談に来られている農家さんや食品関係の会社があるので、今後はそうしたところとのマッチングも期待している」と有里さんは意欲的だ。

Gaki-bizは自分の世界を広げてくれる存在

現在も月に1度のペースでGaki-bizを訪れている有里さん。「特に着地点を決めて相談に行っているわけではないのですが、自分の世界が広がっていかないことにはどこにも行けない。そういう意味では、当初の目的はある程度満たされていますね。松浦さんは第三者的な目線を持っているので毎回気づきをもらえますし、楽しい時間を過ごさせていただいています」。

50周年の時に高校3年生だった、正登さんと有里さんの長男・蓮さんは調理の道に進んだ。

「息子本人がこの世界に入りたいと思っている以上は、これからもGaki-bizに相談しながら、新しい取り組みにも挑戦して、良い形で3代目に橋渡しができたらと思っています」